巴ヶ淵
山吹も巴もいでて田植かな
芭蕉の弟子、森川許六が詠んだ。山吹も巴も木曽義仲の愛妾の名である。


中山道の国道19号を進む。路傍には夏の名残を惜しむかのようにひまわりが咲く。晩夏の木曽谷はどんな姿を見せてくれるのか。今日の旅も楽しみだ。


木曽川を吉田橋の側道橋で渡った先で歩道が無くなり狭い歩行帯となる。大型車の交通量が多いので通行には十分注意が必要だ。この辺りに下嶋(下吉田)の一里塚があった。江戸日本橋から67里目(約263km)の一里塚。


国道は山吹トンネルへ。500m先で伊那方面へ分岐する国道361号はかつての権兵衛街道。姥神峠と権兵衛峠を越えて伊那(長野県伊那市坂下)へ通じる道は、古畑権兵衛が伊那谷から木曽谷へ米を運ぶため、牛馬の通行に適するよう開削改修した歴史の道。現在は2つの峠の下にトンネルが開通している。
旧中山道はトンネル手前の木曽川を渡らず、ガードレールの右側に入り旧国道から山吹山回廊道へ。

旧行政区域名である日義村の標識が残る旧国道。現在ここは木祖村と木曽町の境界である。


山吹山と木曽川の急斜面を開削して付けられた旧国道(廃道)が500m程の道筋を残している。旧国道の半ばから更に斜面上を行く山吹山の回廊道は崩壊しており通行困難。この旧国道も落石崩壊の危険地帯らしく、木曽町側の現国道と旧国道の合流地点には立入禁止を示すゲートと看板が設置されていた。しかしながら中山道を歩く人たちは車の喧騒を避け、あえてこの旧国道を歩いて行くようだ。


神谷入口信号で再び国道に合流し、山吹山の麓を進む。旧道の山吹山回廊道は右手斜面上を辿っており、道跡らしき平地も見える。ここは山吹橋で木曽川を渡り、回廊道とは対岸の県道を進み巴ヶ淵へ。

山吹橋から眺める木曽川。

巴御前の伝説を秘める巴ヶ淵。巴状の渦を巻くことから名の由来となった。山吹山に巻きつくように流れる木曽川が、川幅を狭めてエメラルド色に淀む深い淵を形作る。巴御前が水浴した場所と伝わり、ここに棲んでいた竜神が巴御前に化身したとの伝説も。
