松尾川の渡し

【2013年8月4日(日)旧東海道 水口宿→土山宿 道中】
反野畷から市場と前野の集落を通り抜ければ、旧東海道は灰俵坂を下って松尾川の渡しに差し掛かる。松尾川を越えて三年坂を上がれば、間もなくして土山宿の町並みが続く。松尾川とは土山町前野・野上野地区と北土山・南土山地区の境を流れる野洲川を指す古くからの呼称。石部宿から水口宿への道中で渡河した野洲川は横田川の旧称があり、野洲川はその流域において様々な呼び名があったようだ。また、松尾川には松野尾川・松野川・内白川の別称も。

松尾川の渡しは冬季は仮土橋を架け、夏季は徒歩渡しで通行人を渡河させていたという。徒歩渡しとは川越人足が旅人を肩車や蓮台に乗せて川を渡らせる渡河方法で、川の水量によって川越賃銭が決められていた。最も安い水膝(川の深さが膝まで)は一人銭6文、最も高い水脇(川の深さが脇まで)が一人銭60文で、それ以上は川留め、つまり川を渡ることができなかった。松尾川西岸には橋番屋が置かれ、灰俵坂上から京方面に向かって松尾(松野尾)村の茶屋や旅籠が軒を連ねていたようだが、現在は数軒の民家と田んぼ、茶畑を見るだけである。


より大きな地図で 松尾川の渡し を表示


旧東海道 土山町市場
大日川堀割の先から市場集落の家並み。


市場一里塚跡
市場一里塚跡。江戸日本橋から111里目(約436km)、京三条大橋からは14番目(実測で約58km地点)。両塚とも現存せず。「一里塚跡」碑と解説板が設置される。


炭屋
”東海道市場村 炭屋”の屋号を掲げる民家(写真左手前)。


長泉寺
市場集落の中心にある長泉寺。


諏訪神社
旧東海道を挟んで斜向かいに鎮座する諏訪神社。


両得屋
”東海道市場村 両得屋”の屋号を掲げる民家。両得屋とは面白い屋号だ。売り手も買い手も両得、今風に言えばWin-Winということだろう。


市場の茶畑
沿道には茶畑が多く見られる。


垂水頓宮御殿跡
垂水頓宮御殿跡。垂仁天皇の皇女倭姫命が天照大神のご神体を奉じて鎮座地を求め各地を巡行の折、一時的にご神体を祀った場所の一つ”甲可日雲宮”が土山町頓宮の地にあったとされ、この時の殿舎が設けられていたと伝わるのがこの辺り。なお、甲可日雲宮は甲賀市と湖南市内に10ヶ所以上の候補地がある。倭姫命が最終的に鎮座地と選んだのが伊勢の地、これが伊勢神宮内宮の創祀とされる。


米屋
”東海道頓宮村 米屋”の屋号を掲げる民家(写真左手前)。


地安禅寺
地安禅寺の鐘楼門。「不許葷酒入山門」と刻んだ戒壇石を門前に置くのは禅寺の特徴。”葷酒(くんしゅ)山門に入るを許さず”と読み、修行の妨げとなる臭気の強いネギ・ニラ・ニンニク等の野菜と酒の入門を禁じている。宝永年間(1704年~1710年)林丘寺光子(後水尾法皇の第一皇女、善明院)の意向により、後水尾法皇の御影・御位牌安置所が建立された。


林丘寺宮御植栽の茶
林丘寺宮御植栽の茶。宝永年間に林丘寺光子が植栽したと伝わる。当時、鐘楼門参道両脇は京都音羽御所と林丘寺宮へ献納の茶畑で、昭和初期まで栽培が続けられていたが、現在はこの一樹を記念に残すのみ。


油屋佐右衛門
”東海道前野村 油屋佐右衛門”の屋号を掲げる民家(写真右手前)。


前野の茶畑
旧東海道を離れて滝樹神社へ向かう途中、茶畑が広がる。


滝樹神社
滝樹大明神宮と天満宮を祭祀する滝樹神社。毎年5月3日の祭礼日に行われる”ケンケト踊り”は室町中期にはじまりがあるとされる歴史ある踊り。昭和59年に国の選択無形民俗文化財に指定された。


滝樹神社境内
滝樹神社一帯は絶滅危惧増大種のユキワリイチゲという多年草の群生地。ユキワリイチゲは近畿以西に分布し、3月頃に白から淡紫色の花を咲かせるという。しかし訪れたのは8月、残念ながらその可憐な姿を見ることはできなかった。


聴松園茶舗
”東海道前野村 聴松園茶舗”の屋号を掲げる民家。昔はお茶屋さんだったよう。


旧東海道 明治新道との分岐点
江戸期の東海道と明治新道の分岐点。右方向の道が明治初期に敷設された新道、左は松尾川の渡しに向かう江戸期の旧道。どちらに行くか、もちろん左方向に。


たばこ屋
その分岐点には”東海道頓宮村 たばこや”の屋号を掲げる民家。


旧東海道 土山町頓宮・前野
土山町頓宮と前野の境を進む旧東海道。昔のままの道幅なのか、小路である。


「伊勢大路」碑
旧東海道の路傍に立つ「伊勢大路(別名阿須波道)」碑。伊勢大路(別名阿須波道)は平安時代に開かれた平安京(京都)から鈴鹿峠を経由して伊勢に至る古道。伊勢行きの斎王群行に利用された。斎王が平安京を出て3日目に宿泊した場所が垂水斎王頓宮で、付近にその跡地がある。


旧東海道 旧松尾(松野尾)村
旧松尾(松野尾)村を行く旧東海道。写真の道奥が灰俵坂の下りで、松尾川の渡しに至る。かつては茶屋や旅籠が軒を連ね、芋掛け豆腐や麺類、甘酒が名物だったいう。


旅籠水口屋跡
旅籠水口屋跡。今は水田に。


灰俵坂
松尾川の渡しへ向かう灰俵坂。坂の途中に柵が設けられ立ち入りできない模様。


灰俵坂上の馬子唄碑
坂はてるてる 鈴鹿はくもる あいの土山 雨が降る

灰俵坂上に置かれる馬子唄碑。建立年代不明、ここが東海道だったことを記念して設置したものだろうが、現在は明治初期に敷設された歌声橋ルートが推奨されており、ここを訪れる人は少ないと思われる。


松尾川(野洲川)
国道1号の白川橋を渡って対岸へ。白川橋上より松尾川(野洲川)上流を望む。


北土山滝町の東海道案内板
旧松尾村の対岸、北土山滝町にある東海道案内板。松尾川の渡し方面は通行不可の表記、やはり歌声橋ルートを推奨している。


三年坂
案内板の通行不可方向へ向かうと旧街道らしい雰囲気を残す三年坂が松尾川(野洲川)に向かって下る。その坂の途中には馬頭観世音堂が残る。


三年坂の馬頭観音堂
三年坂の馬頭観音堂。建立年代不明、東海道分間述絵図には薬師堂の名が見える。かつては往来する多くの旅人を見守ってきたのだろう。


松尾川の渡し跡
三年坂を下って松尾川の渡し跡へ。最初の難所。


対岸より灰俵坂を望む
対岸の灰俵坂を望む。せっかくなのでもう少し行ってみよう。


松尾川の渡し跡
靴下を濡らして最初の難所を越えたと思えば再び難所に。もうこうなったら自棄のやんぱち、できるだけ浅瀬を選んで突破しよう。


松尾川の渡し跡
一面小石の河原を進んで。


松尾川の渡し跡
松尾川の渡し跡。ここの対岸に灰俵坂の旧東海道が延びており、冬季には仮土橋が架けられていた地点と思われる。今回訪れた時の松尾川(野洲川)本流はこの程度の川幅だったが、増水時には川幅は広がり水深も深くなるのだろう。昔の徒歩渡しの様子が目に浮かぶようである。


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No title

なんと渡渉したんですか~!
すばらしい!でも十分お気を付け下さい!

イチゲのなかまは本当に可憐な花をつけるんです。
そうかー僕はここはまだ歩いてないから行くなら春ですね!

No title

ビール党さん、こんばんは。
この時は真夏で少々足元が濡れても問題なかったので、行けるとこまで行ってみました。松尾川渡し跡の川岸に残る三年坂と灰俵坂の道筋は、渡河地点に橋が架けられていないために東海道ウォーキングコースから外れていますが、ここを歩かずに通り過ぎてしまうのはもったいないと思うほど、往時の面影を残すよい旧道でした。

ユキワリイチゲの花は是非この目で見てみたいものです。今年3月23日に開催される”あいの土山斎王群行”を見学し、その足で滝樹神社に行けばユキワリイチゲの花を見れるかな。仕事が無ければ行きたいですね。計画だけはしておこうと思います。

No title

しまむーさん

またまたご無沙汰しておりました。


三年坂の風景、松尾川の渡し、素晴らしいですね。
往時の渡し場の様子が目に見えるようです。

東海道にも、まだまだこのような旧道が残っているのですね!

明治期に新たな道が作られた街道も多いですが、
やはり江戸期の旧道こそが街道歩きの醍醐味だと思います。

No title

ビアヘーロさん、ご無沙汰しております。
旧東海道は自治体や地元の方々によって守られ、歩いて旅する人に対しても配慮を感じます。さすがはかつて日本の大動脈だった道ですね。

これからも”松尾川の渡し”のような往時の面影を探しつつ、江戸へ向けて東海道を歩いて行こうと思っています。
プロフィール

しまむー

Author:しまむー
自称りーまんな旅人。
千葉県在住。

Flashカレンダー
現在の行程

東海道 東海道を歩いてます。


1日目(2013/5/19)三条大橋→大津宿 MAP
2日目(2013/7/13)大津宿→草津宿 MAP
3日目(2013/7/14)草津宿→石部宿 MAP
4日目(2013/8/3)石部宿→水口宿 MAP
5日目(2013/8/4)水口宿→土山宿 MAP
6日目(2013/10/13)土山宿→坂下宿→関宿 MAP
7日目(2014/3/9)関宿→亀山宿→庄野宿 MAP
8日目(2014/5/3)庄野宿→石薬師宿→四日市宿 MAP
9日目(2014/5/4)四日市宿→桑名宿→七里の渡し跡 MAP
10日目(2014/6/8)七里の渡し跡→宮宿→鳴海宿 MAP
11日目(2014/11/2)鳴海宿→池鯉鮒宿 MAP
12日目(2015/4/4)池鯉鮒宿→岡崎宿 MAP
13日目(2015/5/23)岡崎宿→藤川宿 MAP
14日目(2015/7/19)藤川宿→赤坂宿→御油宿 MAP
15日目(2015/9/22)御油宿→吉田宿 MAP
16日目(2015/11/29)吉田宿→二川宿 MAP
17日目(2016/2/20)二川宿→白須賀宿→新居宿 MAP
18日目(2016/4/3)新居宿→舞坂宿→浜松宿 MAP
19日目(2016/5/6)浜松宿→見付宿 MAP
20日目(2016/5/7)見付宿→袋井宿 MAP
21日目(2016/6/25)袋井宿→掛川宿 MAP
22日目(2016/7/17)掛川宿→日坂宿→金谷宿 MAP
23日目(2016/10/8)金谷宿→島田宿 MAP

高札場
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